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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」6月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:荘田耕司弁護士)。
2004-06-10
月刊専門誌「運転管理」5月号『判例研究』(担当者:大野澄子弁護士)
今回は、朝の通勤時間帯で渋滞中の幹線道路を走行していた自動二輪車が、横断禁止場所を横断していた歩行者に衝突し、歩行者は負傷、運転者が死亡した事案で、歩行者に不法行為責任が認められた判例を取り上げます(東京地裁平成15年8月26日判決、自動車保険ジャーナル1520号15頁)。

(事故の概要)
事故の内容は、次のようなものでした。
●日時● 平成8年12月6日午前8時45分ころ
●場所● 東京都葛飾区 幹線道路上
●態様● 23歳の男性会社員Aが、自動二輪車(本件単車)を運転して幹線道路の単車専用車線を走行中、歩行者横断禁止場所を横断してきた歩行者Bと衝突して、Aは死亡、Bは負傷しました。
Aの遺族は、歩行者B、及び一緒に道路を横断していたBの夫Cに対し損害賠償を求め訴えを提起しました。これに対し、BもAの遺族に対し、負傷により被った損害の賠償を求め、反訴を提起しました。

(事故の状況)
本件事故が発生した道路は、片側3車線の国道で、最高制限速度は時速50kmでした。片側3車線のうち、道路端の第1車線は、朝の通勤時間帯(午前7時~9時)は単車専用車線となっており、本件事故当時、Aは本件単車を運転して単車専用車線である第1車線を時速約50kmで走行していました。
一方、30歳の女性Bは、夫Cと共に自宅を出て、本件道路を挟んで反対側にある駐車場に向かうため、下り車線を通行する車両が途切れるのを待った後、本件道路の横断を開始しました。B・Cは、比較的空いていた下り車線を横断した後、上り車線の第2・第3車線が渋滞中であったので、渋滞車両の間を縫うように早歩きで渡ろうとしました。そして、第1車線にさしかかったところで、Cは左方から本件単車が走行してくるのに気づき、立ち止まりました。しかし、Bは立ち止まらずに本件単車と衝突しました。
Bは頭部を負傷し、高次脳機能障害、頭部及び顔面部の外貌醜状など後遺障害等級併合5級の後遺障害を負いました。Aは自動二輪車と共に転倒し、死亡しました。

(裁判所の判断)
裁判所は、歩行者Bは、下り車線を横断し、上り車線の2車線を車両の間を縫うように横断した後、左方(本件単車が走行してくる方向)の安全確認をしないまま単車専用車線に進入したものであり、Bが安全を確認していれば、Cがそうであったように、立ち止まって本件単車が通過するのを待つことにより、容易に本件事故を回避することができた、また、Bが渋滞中の車両の間を縫うように横断したことが、AがBらを発見することを遅らせた要因となったとし、Bの過失はきわめて大きく、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないと判断しました。
他方、裁判所は、運転者Aについても、渋滞車両の間を縫って横断する歩行者があることは予測しうる(実際にも、本件事故現場付近でしばしば歩行者が横断していた。)から、運転者としてはその状況に応じて減速した上、右前方をも注視して走行すべき注意義務がある、また、Aが減速し右前方を注視していれば、本件道路を下り車線から横断してくるBらを早期に発見し、本件事故を回避しえたと考えられるのに、時速50km程度で走行し、右前方の注視が不十分であったため、Bらの発見が遅れ、本件事故を回避できなかった過失があると認めました。
そして、A・B双方の過失割合は、Aが単車の運転者であり、Bが歩行者であることを考慮してもなお、Bの過失が相当大きいとして、AとBの過失割合は30対70であると判断しました。
なお、裁判所は、Bの夫Cについては、B・Cが夫婦で一緒に道路を横断していたとしてもB・Cが相互に注意を促すなどの注意義務はない、また、CがBに注意を促し制止するなどの時間的余裕があったともいえないとして、Cの責任を否定しました。

(本判決の意義)
車両対歩行者の交通事故でより大きな被害を被るのは通常は歩行者ですが、本件では運転者が死亡したため、その遺族が歩行者を相手に訴えを提起したという珍しいケースです。
また、車両対歩行者の交通事故では、当事者双方に過失が認められる場合でも、運転者の過失が相当程度重いと判断されることが多いのですが、裁判所は、歩行者が安全確認を怠ったまま渋滞中の車両の間を縫うようにして横断した行為の危険性を認め、歩行者の過失割合が相当程度大きいと判断しました。
もっとも、歩行者が渋滞中の車両の間を縫うように横断する状況は現実にしばしばありますので、車両の運転者もそのような歩行者の存在に十分注意し、いつでも対応できるよう渋滞車両の側を走行する時は減速して走行しなければならないといえます。特に、単車ではなく自動車対歩行者の事故であれば、本件と同様の事故状況であっても自動車の過失割合がより大きいと判断される可能性もありますので、今後とも注意が必要です。

以上

「運転管理」平成16年5月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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