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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」7月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:野田聖子弁護士)。
2004-07-10
月刊専門誌「運転管理」7月号『判例研究』(担当者:野田聖子弁護士)
今回は、大型貨物車に追突されて大破した営業用普通貨物車の時価額が問題となった事案を取り上げます(京都地裁平成15年4月18日判決、自動車保険ジャーナル第1526号13頁)。

(事故の概要)

事故の内容は、次のようなものでした。
●日時● 平成11年12月10日午前2時20分ころ
●場所● 愛知県豊橋市内
●態様● Aが、X所有の営業用普通貨物車(以下「原告トラック」といいます。)を運転中、B運転、Y会社所有の大型貨物車に追突されて大破しました。

(争点)

裁判では、購入から2年経過した原告トラックの時価額をいくらとするか、また営業用への改造費用をどのように考慮して損害賠償額を算定するか、などが争点となりました。

(裁判所の判断)

裁判所は、購入から2年経過した原告トラックの時価を250万円、営業用への改造費用も新車価格と時価額の割合で認めました。

(裁判で判断された車両再調達価格について)
本件事故による原告トラックの修理費見積額は約692万円であり、一方、本件事故当時の原告トラックと同型式・同年代の車両の時価は230万円ですので、この原告トラックは本件事故により「経済的全損」に至ったということになります。
この点、Xは、本件事故当時の原告トラックと同型式・同年式のトラックの再調達価格について、複数の自動車販売業者に問い合わせたところ、その金額は450万円であったと主張し、それを立証する証拠として見積書を裁判に提出しましたが、見積書のトラックは、原告トラックとは馬力が違う等の理由で、裁判ではこの450万円は認められませんでした。
ただし、裁判では、原告トラックは、本件事故発生直前の平成11年11月末日ころに車検を受け、その費用が約30万円であったことから、この点も考慮して、代替車両調達価格を250万円(同型式・同年式の車両の時価230万円+車検費用の考慮20万円)と見ることとし、これに5%の消費税12万5000円を加算した262万5000円を損害額としました。

(車両の買替差額について)
車両の修理が不可能か、または著しく困難な場合は、事故車を買い替える必要が生じますが、この場合には、車両の時価と売却代金の差額を、損害として請求できるとされています。そして、車両の時価とは、同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価格をいうとされています(最高裁判例昭和49年4月15日民集28-3-385)。修理技術の問題から修理ができない「物理的全損」の場合のみならず、修理費が車両の時価を上回る「経済的全損」の場合にもこの基準が当てはまります。
本件の原告トラックは「経済的全損」に該当するため、車両の再調達価格が問題となりました。この点につき、本件では、原告トラックが車検直後であったことを考慮して、損害額として、車両の再調達価格にその車検費用の3分の2に当たる20万円が加算されている点に意義があるといえます。
また、買替に要する諸費用についても、事故と相当因果関係のある範囲で損害とされます。具体的には、自動車取得税、車庫証明費用等のうち相当額が、事故による損害として認められます。
本件においては、原告トラックは新車購入時に約140万円をかけて改造を施してあったことから、この改造費用が買替に要する諸費用であり損害であるとして賠償の対象となるかが問題となりました。本件の改造の内容は明らかではありませんが、営業車への改造費用について、裁判では、「改造内容に特段の不合理な点は見当たらない」として改造の必要性および合理性を認めた上で、改造についても一定程度の減価償却がなされなければならないとし、新車価格と時価額の割合で改造費用にかかる損害であると認めました。
施してあった改造について、改造の必要性と内容の合理性を個別に判断した上で、改造部分の時価を求めて改造費用にかかる損害額としたこの判断は妥当といえます。

以上

「運転管理」平成16年7月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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