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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」9月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:長浜周生弁護士)。
2004-09-10
月刊専門誌「運転管理」9月号『判例研究』(担当者:長浜周生弁護士)
今回は、修理中の車両の代車を借り受けた人が、代車を返さなければいけない日に返さず、返すべき日から41日後に起こした交通事故につき、代車の貸主が自動車損害賠償保障法第3条にいう「運行供用者」に当たるとされた事例をとりあげます。(東京地裁平成14年10月24日判決 判例時報1805号96頁)

(事故の概要)
事故の内容は、次のようなものでした。
●日時●平成10年6月9日 午前6時55分ころ
●場所●東京都足立区内交差点
●態様●前記日時場所において、Aが運転する加害車両(Y1所有)が同交差点の信号を無視して走行したことから、Xが加害車両を追跡し、加害車両のドアを開けてAの信号無視を注意した。これに対し、Aが加害車両を急に後退させたために、Xが加害車両に巻き込まれ転倒し、左股関節脱臼、創部感染症の傷害を負った。

(訴訟の内容)
本件事故について、被害者であるXが、加害車両の所有者Y1とY1から加害車両を借り受けAに代車として貸与していたY2に対し、Y1及びY2(以下あわせて「Yら」といいます)が自賠法3条にいう「運行供用者」に当たるとして、治療費、休業損害、慰謝料等968万円余りの損害賠償を支払うよう訴えを起こしました。
これに対し、Yらは、本件事故は、AがY2から代車を借受け、返還義務が生じてから41日後に発生した事故であり、Y2はAに対して返還時期到来後何度も返還を求めたものの、Aが「直ちに返還する」など述べて欺き続けていたために返還を受けられなかったもので、Yらは自らに責任はないと主張しました。

(判決の内容)
本件判決では、Yらは本来いずれも加害車両の保有者として加害車両につき運行支配と運行利益を有するものであり、加害車両がAに対して代車として貸与されていても、Aの保有車両が修理されれば返還されることが予定されていたから、「特段の事情」がない限り、加害車両についての運行支配と運行利益を失うものではないとした上で、ここにいう「特段の事情」が認められるためには、貸主が借主による車両の運行を排除するために必要な措置を講じる必要があるとし、本件ではYらはAによる加害車両の運行を排除するために必要な措置を採っていたとすることはできないとして、Yらに全面的に責任を認め、金554万円余の損害賠償を命じました。

(返還期限徒過後の事情)
過去の判例では、返還期限前の事故については、貸主に特に問題なく自賠法3条の「運行供用者」としての責任を認めていますが、返還期限を過ぎた後に起きた事故については、責任を認めるものと認めないものがあります。
これらの判断基準は、以下のような点にあるとされています。
(1) 貸主の意思と現実の使用との不一致の有無・程度
例えば、貸主が「返還期限を過ぎたけどまだ使っていても構わない」と思って放置していたような場合などには、運行供用者責任が認められることになるでしょう。
(2) 返還に対する貸主の努力の有無・程度
警察への届出を行うなどの措置を採ったかどうか。このような手続を採らないと責任が認められる可能性があります。
(3) 使用内容に対する欺罔行為の有無
実際の車両使用者が「何日後に返す」と言って、それを守らなかったり、何かと嘘の理由をつけては返還に応じなかったというような場合には、貸主の責任は認められない方向に働くと思われます。
(4) 貸主と借主との人的関係の希薄性の程度
貸主と借主の関係が、親子など親密な関係である場合には、貸主に運行支配・運行利益が高いと考えられるので、貸主としての責任は認められやすくなるでしょう。
(5) 借主側の運行費用の負担の有無
借主が自動車の運行費用(ガソリン代など)を自ら負担していた場合には、貸主としての責任は認められない方向に働くかと思われます。

以上の(1)から(5)の要素のなかで、(2)が最も重視されるものと考えられており、警察への届出などの貸主の返還努力が十分でないと、場合によっては返還期限徒過後の運行を黙認・追認しているとみなされるおそれがあるとされています。

(安易な自動車貸与は慎むべき)

自動車を第三者へ貸与することは日常少なくないかと思いますが、その場合、きちんと返還時期を定めることは重要ですが、定めていたとしても、その返還が現実になされず、借主が勝手に自動車を乗り回しているのをただ指をくわえて待っているのでは、その後不幸にも交通事故が起き、被害者に人身傷害が発生したようなときには、貸主が思わぬ責任を負うことになりかねません。
安易な自動車の貸し借りは厳に慎むべきでしょう。

以上

「運転管理」平成16年9月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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