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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」11月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:荘田耕司弁護士)。
2004-11-10
月刊専門誌「運転管理」11月号『判例研究』(担当者:荘田耕司弁護士)。
今回は、レンタカーを借りて3名で北海道を旅行中、レンタカーが誤ってセンターラインを超えて対向車線を走行していた車両に衝突し、レンタカー後部座席に同乗中の2名が死亡・負傷した事故につき、3名が自賠法上の運行供用者の地位にあったと認められた事例を取り上げます(東京高裁 平成7年9月13日判決、判例時報1597号75頁)。

(事故の概要)
事故の内容は、以下のようなものでした。
●日時●平成2年9月7日午後3時22分ころ
●場所●北海道松前郡
●運転者●A
●同乗者●B、C
●事故車両保有者●X(レンタカー会社)
●態様●A、B、Cは3名でレンタカーを借りて北海道を旅行することとし、Cがレンタカー会社であるXにレンタカー利用の予約の申込みを行い、後日BがXからレンタカーを借り、Aがレンタカーを運転して北海道を旅行していました。ところが、Aがレンタカーを運転していたところ、センターラインを超えて対向車線を走行していた大型貨物自動車と衝突する事故を起こしました。この事故により、レンタカーの後部座席に乗車していたBが死亡し、また助手席に乗車していたCも負傷しました。Xは、自賠法の責任主体である運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)に該当しますが、BとCにそれぞれ損害を賠償したため、自賠責保険契約を締結していたYに対し、自賠法15条に基づき、保険金の支払いを求め訴訟を提起しました。

(争点)
自賠法3条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。そこで、XのYに対する保険金の支払請求が認められるためには、被害者であるB及びCが自賠法3条の「他人」に該当する必要があります。本件における主要な争点は、B及びCがこの自賠法3条の「他人」に該当するかどうかという点にありました。

(原審の判断)
第一審は、BがXとの関係で自賠法3条の「他人」であることを主張することはできないと判断して、XがBに対して支払った賠償額相当の保険金請求を棄却しました。一方、Cについては、Bがレンタカーを借り受けるに先立ち予約申込を行っているものの、本来A又はBが行うべきことをCが代わりに行ったにすぎないこと、Cは普段日常生活において車を運転しておらず、本件旅行において、運転者であるAに対して運転の交替や運転方法の指示等具体的に運行を左右するような言動をとることはおよそ考えられないことからすると、Cのレンタカーに対する実際の運行支配はX社のそれに比べてかなり弱い程度であったと認められるとして、CはXとの関係で自賠法3条の「他人」であることを主張することができると判断して、XがCに対して支払った賠償額相当の保険金請求を認めました。

(控訴審の判断)
これに対し、控訴審は、まず、A、B、Cが共同してレンタカーを賃借し、3名の共同の目的である北海道旅行の用に供していたものと推認するのが相当であるとし、事故当時のレンタカーの運転行為はいわば3名の一体としての運転行為であり、事故当時3名はレンタカーについて運行供用者の地位にあったと認定しました。その理由は、①3名は北海道旅行につき共同して計画を立て、レンタカーを利用して道内を移動して観光することにしていたこと、②Cがレンタカー利用の予約申込を行ったが、実際にXから借りたのはBであること、③Bは運転者がBであると申告したが、実際にはAが1人で運転していたこと、④ガソリン代については割り勘で支払う約束であったこと等でした。その上で、Xはレンタカーの所有者である一方、A、B、C3名はXからレンタカーを賃借してその共同の目的である北海道旅行の用に供していたのであるから、レンタカーの具体的運行に対する支配の程度態様は、B、Cのそれが直接的、顕在的、具体的であるのに対し、Xのそれはより間接的、潜在的、具体的であるから、B、CがXに対し自賠法3条の「他人」であることを主張することはできないとして、一審判決を取り消し、Xの請求を全面的に棄却しました。

(まとめ)

自動車事故が発生した際、複数の運行供用者を想定できる場合、そのうちの1名が被害を受けたときにその被害者が他の者との関係で自賠法上の「他人」として保護されるかどうかは、どちらの運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるか、あるいは直接的、顕在的、具体的であるかによって決められるとされております(最高裁第三小法廷判決昭和50年11月4日民集29巻10号1501頁参照)。レンタカーの同乗者であっても、共同して旅行を計画しガソリン・レンタカー代等を均等に負担していた等の事情がある場合には、上記基準に照らし、レンタカー会社との関係では自賠法上の他人性が否定される可能性がありますので(東京地裁平成15年9月3日判決参照)、留意が必要です。

以上

「運転管理」平成16年11月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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