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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」12月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:岸田真穂弁護士)。
2004-12-10
月刊専門誌「運転管理」12月号『判例研究』(担当者:岸田真穂弁護士)
今回は、道路交通誘導員が誘導灯を振っていたため、右折できるものと過信して信号及び対向車を確認しないで交差点を右折したところ、対向車線を直進してきた車両と衝突した事故につき、右折車両運転手と道路交通誘導員の過失割合を70対30とした事例を取り上げます(東京地裁 平成15年9月8日判決、自動車保険ジャーナル1546号16頁)。

(事故の概要)

事故の内容は、以下のようなものでした。
●日時●平成12年3月18日午前2時30分ころ
●場所●神奈川県川崎市川崎区内交差点
●道路状況●
本件交差点の手前では3つの通行帯があり、これらの通行帯とは別に右折専用レーンが設けられていましたが、本件事故当時第2通行帯及び第3通行帯の補修工事のため、右折専用レーンへの進入ができないようになっていました。
●事故態様●
Xは車両を運転し、本件交差点を右折するため右折専用レーンに進入しようとしましたが、工事のため進入することができませんでした。そこで、Xは本件交差点を直進通過しようと考え、第1通行帯(左折及び直進)を進行していたところ、先行していたタクシーがウィンカーを出して第1通行帯から本件交差点を右折していくのを目撃したため、同様に右折しようとしてウィンカーを出して進行しました。その時、本件交差点で交通を誘導していたYが誘導灯を振っているのが見えたため、Xは「右折しても構わない」と判断し交差点に進入し右折したところ、対向車線を直進してきたB車両と衝突し、これにより両車両はともに大破全損しました。なお、Xが右折した時点での対面信号は、直進及び左折の青矢印を表示していました。
本件において、Xとの保険契約に基づき損害を填補した甲保険会社は、Yの使用者である被告に対し、求償権に基づき、またXも、被告に対し、保険で填補されなかった残損害につき使用者責任に基づき、それぞれ損害賠償を請求しました。

(争点)
本件における主要な争点は、①Yの行為に過失が認められるか、②Yに過失が認められるとしてXとYの過失割合をどのように判断するかという点でした。

(当事者の主張)
原告らは、XはYの合図に従って本件交差点を右折進行したのであり、本件事故の責任の大半はYの過失にあると主張しました。これに対して、被告は、Yが本件交差点を右折進行することができるような合図をしたことはなく、Yに過失はないと主張しました。

(裁判所の判断)
まず、裁判所は、Yが積極的に右折進行することができる合図は出していないとしても、少なくとも右折進行しても構わない旨の合図を出していたことを認めました。その上で、裁判所は上記争点につき下記のように判示しました。
①Yの過失の有無について
「交通誘導警備の手引」によれば、警備員が道交法等に定められた通行方法と異なる誘導を行うことは、交通事故を発生させる原因となるため許されない等とされているところ、本件では、X車及びB車の進行車線は対面信号が直進及び左折の青矢印を表示していたのであるから、YがX車に対し本件交差点を右折しても構わない旨の合図を出した場合、対向車線を直進してくる車両との間で交通事故が発生する可能性は十分にあり、Yはこれを予見することが可能であったとして、Yの過失を認めました。
②XとYの過失割合について
裁判所はXとYとの過失割合につき、70対30としました。
その理由は、(ア)Yの合図には道交法上何ら格別の権限が与えられたものではなく、これに従うか否かは最終的には運転者の規範意識によらざるを得ないところ、Xは対面信号の表示が右折可であったか否かを十分に確認しないまま、Yの合図をもって右折進行ができるかのように思い込んだこと等から右折進行したものであり、信号機の表示する信号に従うという道交法上の運転者の基本的な義務に違反するという重大な過失があったといえること、(イ)Xとしては右折後も然るべき場所で一時停止した上、対面信号が右折可の表示に変わるのを待って進行するなり、せめて徐行して対向車線を走行してくる車両を注視しながら進行するなりの措置を採っていれば、Yの合図があったとしても、なお本件事故の発生を未然に防ぐことができたことは明らかであること、等の事情を総合的に勘案するとXとYの過失割合は70対30とみることが相当であるというものでした。

(本判決の意義)
誘導員による交通誘導がなされた場合、運転者としてはその誘導を信頼して運行をしがちです。しかしながら、誘導員の合図には道路交通法上なんら格別の権限が与えられたものではありません。したがって、運転者としてはあくまでも道路交通法規に従った運行をすべきでしょう。

以上

「運転管理」平成16年12月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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