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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」4月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:大野澄子弁護士)。
2005-04-10
月刊専門誌「運転管理」4月号『判例研究』(担当者:大野澄子弁護士)
今回は、死亡事故を起こした貨物自動車の運転者と共に、同乗者も幇助者として共同不法行為責任を負うとしたケースを取り上げます(東京地裁八王子支部平成15年5月8日判決、判例タイムズ1164号188頁)。

(事故の概要)

事故の内容は、次のようなものでした。
●日時●平成14年1月23日午後11時13分ころ
●場所●東京都多摩市路上
●被害車両●A車(原動付自転車):運転者A(19歳男子学生)
●加害車両●B車(自家用貨物自動車):運転者B、同乗者C、同乗者D
●態様●Bは、E社の従業員で、同社が請け負った設備工事施工のため、同社の下請業者である別の会社の従業員C、Dらと共に工事現場近くの旅館に宿泊していました。工事終了後飲みに行くことになり、Bは、E社所有のB車にC、Dを乗せて外出し、2軒の飲食店で多量に飲酒しました。その後、旅館に帰るため、BがB車を運転し、C、Dがこれに同乗して走行中、前方を走行していたA運転のA車の後方に衝突し、Aを死亡させました。

(裁判の争点)

被害者Aの遺族は、運転者B(民法709条)、B車の保有者であるE社(自動車損害賠償保障法3条)のみならず、同乗者C、Dに対しても、Bと共に多量に飲酒しながら泥酔しているBの運転を制止せず、B車に同乗したとして、損害賠償を請求しました(民法709条、719条、共同不法行為責任)

(裁判所の判断)

裁判所は、運転者B、車両所有者Eと共に、同乗者C、Dも連帯して損害賠償責任を負うと判断しました。その理由は以下のとおりです。

(1)C、Dは、Bが外出先で飲酒した後にB車を運転して旅館に帰ることを予想しており、B車に同乗して運行の利益を受けることを予定した上で、Bと一緒に飲みに行くことを合意していること、

(2)C、Dは、Bが2軒の店で酩酊状態になるまで飲酒することを制止することなく、共に飲酒をしていること、

(3)さらに、Bが2軒目の店を出た後、ふらついて倒れかかり、B車の運転席に乗り込んだ後も容易にエンジンキーを鍵穴に差し込めないなど、甚だしい酩酊状態にあったのに、Dにおいて2回ほどBに対し運転を代わろうという申し出をしたのみで、結局はBの運転するB車に同乗して出発したことから、

(4)C、Dは、Bの酒酔い運転によるAへの加害行為を助長、援助したものとして、少なくとも民法719条2項の幇助者の責任が認められるというべきである。

(5)これに対し、被告らは、BとC、Dとの間には上下関係があり、またDが運転交代を申し出たのにBが応じなかったことから、C、DにはBの運転を制止すべき法的義務は認められないと主張するが、C、Dは、B車に同乗して運行の利益を受けることを予定してBと一緒に出かけており、しかも2軒目の店を出た時点でBが甚だしい酩酊状態のため正常な運転ができないことは明らかであったから、C、DにはBの飲酒運転により他者に危害を与える事態が発生することについてこれを阻止する法的義務が認められ、

(6)たとえBとC、Dとの間に仕事上の上下関係があり、Bが運転交代に応じなかったとしても、そもそもC、DがBと共に飲みに出かける時にB車運転以外の別の交通手段を用いることを勧めていれば、Bが酒酔い運転をすることはなかったのであり、さらにC、Dがタクシー等を利用して旅館に帰るとの意思を表示していたなら、Bも運転を諦めた可能性は高かったから、C、DについてBの運転を阻止することを期待できなかったとはいえない。

(同乗者の責任)
運転者が飲酒して事故を起こした場合、その同乗者が飲酒運転を援助、助長した場合には、「幇助者」として、運転者と同一の責任を負います(民法719条2項)。本判例は、運転者の飲酒量、酩酊度、同乗者の飲酒勧誘の積極性、運転者と同乗者の関係、運転者の運転状況とこれに対する同乗者の態度、飲酒から事故までの時間などを総合的に判断して、同乗者の責任の有無を判断しています。また、仕事上の上下関係があったとしても、同乗者が運転者の飲酒運転を阻止することはできたとして同乗者の責任を認めました。このように、自分自身が飲酒運転をしなくても、知人などの飲酒運転の車に同乗しただけで、運転者と同じ損害賠償責任を負う場合がありますので、くれぐれも注意が必要です。

以上

「運転管理」平成17年4月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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