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お知らせ

月刊誌「Voice」5月号((株)PHP研究所)のM&Aに関する記事を執筆しました(担当者:永沢徹弁護士)。
2005-05-01
特集ライブドアの大誤算「脇が甘かったフジテレビ」(担当者:永沢徹弁護士)
そもそもニッポン放送と同時に上場したのが誤りだ
インターネット関連会社ライブドアとフジテレビジョンが、ニッポン放送の支配権をめぐって争っている。

この事件は二月八日、東京証券取引所の通常取引が始まる前の時間外取引で、ライブドアがニッポン放送株の二九・六%を取得したことに端を発する。

ニッポン放送は、フジテレビジョン株の二二・五%をもつ筆頭株主であり、フジテレビは産経新聞社や扶桑社の筆頭株主である。同日、ライブドアの堀江貴文社長は記者会見で、フジサンケイグループに業務提携を申し入れる意思を明らかにしたが、フジサンケイ側はこれを拒否、以来、周知のように両者は完全な対立関係にある。

この争いは、日本国内では珍しい敵対的M&A(企業買収)のケースである。二○○六年に予定されている改正会社法施行を控えて、今後、われわれがM&Aそのものを考える際の好材料となる。以下、この事件の経過と今後の展望、さらには日本企業のM&A対策について、考察を加えてみたい。
「時間外取引」は違法?
この事件当初に話題になったのが、ライブドアが時間外取引(取引時間外に行なわれる市場内取引の総称)で株を取得したことの是非である。フジサンケイグループ側は、「TOB(株式公開買い付け)規制違反ではないか」との疑問を呈したが、この言い分には少し無理がある。

東京証券取引所における取引時間外の株売買は、これまでも自社株買いの際などに行なわれてきた。「今後は規制すべき」という議論はありうるだろうが、過去に遡ってまで適用すべきではない。

ただ、ニッポン放送株取得のやり方として「ライブドアのやり方がベストだったか」という疑問は残る。仮に全株式の三分の一未満(たとえば三○%)に達するまでの株式を時間外取引で取得し、残りをTOBで取得しようとしたとする。

ライブドアが敵対的M&Aを開始した時点で、ニッポン放送株は急騰し、フジテレビが示したTOB価格(一株五九五○円)を上回った。

そこでライブドアがフジテレビよりはるかに高い金額(たとえば一株七○○○円)でのTOBを提案し、TOB合戦に持ち込んでいれば、ライブドアのTOBに応じようとする株主も出てきただろうし、フジテレビ側もTOB価格を引き上げざるをえなかったのではないか。

TOB合戦という正攻法を選ばずに、時間外取引+市場での買い進みという、いわば「奇襲戦法」をとったため、どこかマネーゲーム的な印象(ライブドアは、高値での株売り付けをめざすいわば「グリーンメイラー」ではないか……)を与え、世論に正当性をアピールできなかった。

そもそもライブドアの名が一躍知られたのは、二○○四年、近鉄バファローズの買収に名乗りを上げたときである。買収自体はうまくいかなかったが、十分な話題を提供し、「既成勢力に立ち向かった」と英雄視すらされた。今回、フジテレビより高い金額でTOBを正面から行なえば、「価格の安いフジテレビのTOBに応じるのはおかしい」といった議論を喚起できたのではないだろうか。

また、TOBは、集まった株が目標数に達しない場合、株の買い取り自体が取り消される。経営権の取得をめざすのであれば、目標を五○%として、それに達しない場合、応募した株の買い取りに応じる必要はなくなる。そうすれば、たとえ買収が成功しなくても、リスクは最小限に留めることができたはずである。

一方のフジテレビも、ライブドアの敵対的M&Aにうまく対処していたとはいえない。三月八日、フジテレビはニッポン放送の発行済み株式総数のうち、三六・四七%をTOBで取得したと発表した。三分の一を確保したことで、フジテレビは単独で株主総会における特別決議を否決できる権利を得た。だが、じつはこのことに大きな意味はない。ニッポン放送の取締役は、今年六月末に行なわれる株主総会で全員が退任する(せめて半分ずつ任期の分散化を図っていれば別であったので、この点でも企業防衛策として手抜かりがあったと指摘されても仕方がない)。ライブドアとしては、三分の二の絶対多数で、いまの取締役の任期途中での解任を決議する必要はないのである。

六月末の株主総会で議決権を得るためには、株式の過半数を制するのが最も得策だ。当初はフジテレビも取得目標を五○%超としていた。しかし二月十日、フジテレビは目標値を二五%に下げてしまった。三六%という数字は、当初の目標にまったく届いていなかったのである。
裁判所の判断は妥当
今回興味深かったのは、ニッポン放送がフジテレビに発行しようとした新株予約権(一定の価格で株式を購入できる権利)に対する裁判所の判断である。最大で四七二○万株を新たにフジテレビに与え、ライブドアの株式保有比率を低める作戦だったが、ライブドアは二月二十四日、差し止めを求める仮処分申請を、東京地方裁判所に行なった。

このケースでの新株予約権の発行は、明らかに現経営陣の支配権を維持するためであり、商法上看過できない。ただし今回は、企業グループ全体の価値を保ついわば「緊急避難」として、ニッポン放送の主張が認められる可能性があった。

ニッポン放送が行なう最大の事業は、じつは音楽・映像ソフトを手掛けるポニーキャニオンである(従業員はニッポン放送の倍近い四○○人)。ポニーキャニオンは、資本的にはニッポン放送の子会社だが、『踊る大捜査線』ムービーのDVDを出したり、「月九ドラマ(フジテレビが月曜夜九時から放映している看板ドラマ)」主題歌などの音楽著作権をもっている。事業的にはフジテレビのコンテンツに依存しているといえる。ニッポン放送の事業のかなりの部分をポニーキャニオンが占めるなかで、フジテレビと対決するのが危機的状況だという理由は、分からなくはない。

しかし結局、東京地裁の鹿子木康裁判長は三月十一日、ライブドアの申請を認め、新株予約権発行差し止めの仮処分決定を下した。
「会社支配権の争奪は不適任な経営者を排除し、合理的な企業経営を可能とするという側面も有しており、一概に否定されるべきではないところ、公開会社において現にその支配権につき争いが具体化した段階において、取締役が現に支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として新株発行を行なうことは、会社の執行機関に過ぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されず」
「本件新株予約権の発行は、現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的とするものであり、なお現経営陣の支配権を維持することを目的とするものというべきである」
とし、著しく不公正な発行に当たるというのがその理由である。

ニッポン放送はこれを不服として、同日に保全異議を申し立てたが、東京地裁(西岡清一郎裁判長)は同月十六日、これを【斥/しりぞ】ける決定をし、さらに東京高裁(鬼頭季郎裁判長)も同月二十三日、これに対する保全抗告を却下した。これは至極真っ当で、常識的な判断だといわざるをえない。ニッポン放送による新株予約権の発行は、一○○メートル走の最中、突然走る距離を一四四メートル追加して「増えた一四四メートルはフジテレビしか走れません」というようなものだ。フジテレビの勝ちが明白で、とても公平な競争とはいえない。

また、過去に行なわれた新株予約権の発行は、たとえ大義名分であれ「工場新設のため」「資金調達のため」などの理由があった。企業防衛や経営権の維持のみが目的という例は、皆無である。

その意味で、新株予約権発行の是非が、防衛目的で使われる際には合法かというラインが、この決定ではっきりした。現経営陣の経営権を守るための新株予約権発行は「違法」なのである
ライブドアは完全勝利できるか
この決定後に焦点となったのは、株主名簿が確定する三月二十五日までに、ライブドアがニッポン放送株の過半数を集められるかどうかだった。

三月十六日、ライブドアのもつニッポン放送株が、議決権ベースで五○%を超えた。しかしそれでも、これをもってライブドアの完全勝利とはいえない。六月末の株主総会までニッポン放送は現経営陣の経営下にあり、この期間に彼らは「焦土作戦」(ナポレオンがロシアに侵攻した際ロシア側がとったディフェンスに由来)を実施する可能性がある(三月十四日フジサンケイグループは、焦土作戦の検討を正式表明)。つまり、撤退しながら優良事業や資産(いわゆるクラウンジュエル=王冠の宝石)を処分してしまうのである。

すなわち、ニッポン放送のなかで資産価値の高いポニーキャニオン株やフジテレビ株を第三者の手に委ねる。実際三月二十四日、ニッポン放送はソフトバンク・インベストメント(SBI)に対してフジテレビ株を五年間貸与すると発表し、ポニーキャニオン株をSBIの運営にかかる共同ファンドに移すことを検討中としている。こうしてニッポン放送保有の株式をほかに移してしまえば、ニッポン放送への支配はポニーキャニオンやフジテレビには及ばない。

人材面でも、たとえばニッポン放送に勤める優秀なディレクターたちが、ライブドアの支配を嫌ってフジテレビなどに移る可能性がないとはいえない。

その場合、ニッポン放送は「箱とお金」が残るだけの会社になりかねない。ライブドアはニッポン放送の「現経営陣に焦土作戦を実施させず」「人材を流出させない」という条件を揃えないかぎり、ニッポン放送株の取得が成功裏に終わったとはいえない。ただし、焦土作戦が実行され、人材流出が起こったとしても、相当の現金がニッポン放送内には残る。この金をテコに、ほかの企業買収を進めるのが、案外ライブドアの狙いなのかもしれない。

今後の展開について一つだけはっきりしているのは、ニッポン放送の上場廃止がスケジュールに上ることである。二月末の段階で、両者が取得したニッポン放送株を合わせると、約八○%になる。東証の現行基準では、大株主上位一○社の取得株の合計が八○%を超えれば、一年の猶予期間を経て上場が廃止される。九○%を超えれば即上場廃止が決まる。

このとき、勝った側に痛手は少ない。過半数をもっているなら、むしろ上場しないほうが楽である。しかし敗者にとって、持ち株を処分できる機会の激減を意味し、大きすぎる痛手となる。ここでライブドアの救いは、自社株で資金を調達していることである。取得費用を調達するため、ライブドアは転換社債型新株予約権付き社債をリーマン・ブラザーズに対して発行している。損をしても自分の株式が増えるだけだから、上場廃止の時点で敗者となっても、致命的な事態にはならなくて済むという計算だったのかもしれない。

つまり、ライブドアにとって今回のM&A工作は、「勝てば少ない資金で大メディアグループを影響下に収めることができ、仮に負けても致命傷は負わなくて済む」というローリスク・ハイリターンの賭けだったのではないだろうか。

それはライブドアが、TOBでなく、時間外取引で株式を集めたことからも推測できる。ライブドアは、株式買い占めに焦ったフジテレビが、TOB価格を市場価格より高く釣り上げることを期待したのではないか。その時点で集めた株式をフジテレビに売り、利鞘を稼ぐつもりだったのかもしれない。

だからこそライブドアは株の価格だけが気になり、事業や人への視点を欠いてしまったのだと思われる。間違っても「ニッポン放送は解散しても解散価値がある」などという発言はすべきでなかっただろう。国民のほとんどは、こうした堀江氏の言動で、ライブドアの目的がたんなるマネーゲームだと感じてしまった。株集めと併行して、いかに社員の心を集めるかということがM&Aではきわめて大事であるが、ライブドアがそれを重視していないかのように見えてしまったことは不幸なことである。
「買ってくれ」といわんばかり
今回の騒動の背景に、フジテレビの脇の甘さを指摘する声があるが(二月二十一日、トヨタ自動車会長・奥田碩氏)、たしかにそういわざるをえない部分もある。フジサンケイグループの中核をなすフジテレビの筆頭株主が、時価総額わずか二○○○億円(一時一○○○億円を割り込んでいた時期もあり、これが村上ファンドを中心とする投資家にとってきわめて魅力的に見えたことは想像に難くない)のニッポン放送で、そのニッポン放送が上場しているのである。フジテレビ本体を乗っ取るには数千億円もの資金が必要だが、ニッポン放送なら数百億円で済む。  にもかかわらず、ニッポン放送・フジテレビの両者がともに過半数をもたない状態を続けたのは「買ってください」といわんばかりで、あたかも西武とコクドを両方上場させていたようなものである。

本来は、フジテレビ自体に上場の必要性がなかったのではないか。フジテレビほど業績のよい企業なら、株式公開しなくても従業員や取引先、関係会社などの身内だけでも十分な出資者を募ることは可能であったはずである。お台場の本社ビルにしても銀行からの借り入れで十分賄えたろうし、内部留保金からでも出せない額ではない。上場の時期もニッポン放送が一九九六年、フジテレビがその一年後の一九九七年と、ごく最近である。「なぜいまさら上場したのか」との疑問は拭えない。

おそらくフジテレビとニッポン放送が両社同時上場にこだわったのは、ニッポン放送の大株主である鹿内宏明氏の影響力を薄めたい思惑があったからだろう。一九九二年、産経新聞社の取締役会で鹿内会長が解任されたが、フジサンケイグループの議長を降りたのちも、鹿内氏はニッポン放送の筆頭株主として影響力を行使していた。ニッポン放送は上場することで、鹿内氏の持ち株比率を下げようとしたのではないか。それは株主間の勢力関係を有利に運ぶための手段であり、資本上の必要に迫られたものではなかった。本来フジテレビはニッポン放送を吸収し、両者の関係を正しておく必要があったが、それを放置していた。それが今回の騒動に繋がったのではないか。

しかし、そもそも「会社が乗っ取られるなどありえない」と考えてきたのが、いままでの日本企業だった。五割の安定株比率を維持し、七割の株主を押さえているというのが、その根拠だった。

日本企業はいわば「プールの中」で泳いでいたのである。プールには荒波が立つこともないし、鮫や鯨が入り込むこともない。ときたま、内紛が起こったり異分子が飛び込むことはあったが、せいぜいが限られた範囲での争いだった。

しかし、いつの間にか日本企業は「海の中」で泳ぐようになっていた。株式持ち合いの解消が進み、安定株主が減り、代わりに外国人株主や機関投資家が増えた。彼らは経営者に「イエス」といって、白紙委任状を出す存在ではなかったのである。

もっとも現在は「海」といってもせいぜい「東京湾程度」で、荒波が立つことは少ない。だが二○○六年の改正会社法施行によって、外国企業が日本企業を買収するのも、逆に日本企業が外国企業を買収するのも容易になる。日本企業は否が応にも大海に飛び出さざるをえない。

このとき問題なのは、持ち合い解消に伴う日本企業の株主構成の劇的な変化と時価総額の低さである。先の奥田会長の発言は、裏を返せば「トヨタの敵対的M&A対策は万全」ということである。その理由として、トヨタの協力会社や素材メーカーや商社などの強力な関係者が、相当数のトヨタ株をもっていることが挙げられる。安定株主の力によって、磐石の体制を築いているのである。

これは「株主オンブズマン(株主となることで、企業行為を監視する団体)」による、トヨタとソニーの昨年度株主総会における取締役の報酬開示提案に対する議決状況を見ても分かる。同団体は日本を代表する企業としてトヨタとソニーに対して報酬開示を求めているが、ソニーでは株主の三一・二%が開示に賛成したのに対して、トヨタでは一九・六%の賛成に【止/とど】まっており、外国人や機関投資家の持ち株比率が高いソニーに比べて、開示賛成への比率がかなり低い。それだけ安定株主の割合が高く、外国人株主や機関投資家といった、流動的な株主の比率が低いということがいえる。

さらにいえば、トヨタの時価総額は現時点でも約一四兆円(これに対してソニーは約四兆円)に達しており、とても買収を仕掛けられる額ではない。たとえ世界第一位の規模をもつ自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)がトヨタを呑もうとしても、同社の時価総額はトヨタの約四分の一にすぎず、まず不可能である。トヨタは自動車業界においてはすでに並ぶもののいない「鯨」なのだ。

ところが日本企業の多くは、たとえ「優良企業」と呼ばれるところでも、時価総額にすると、世界の一流企業と比べてとても低いのが現状だ。日本の花王の時価総額はアメリカのP&Gの一○分の一にすぎないし、イトーヨーカ堂やイオンにしても、ウォルマートが買収をかけようと思えばできない額ではない。日本の製薬会社では最も大きい武田薬品工業も、時価総額は世界の最大手ファイザー株式会社の約四分の一以下にすぎない。

二○○六年の会社法改正は、日本企業にとって楽観できないものとなる。本当の意味での「開国」なのである。そこでただ「尊皇攘夷」を唱えるだけでは、外国勢力に対抗できない。

むしろ一定程度、外からの風が当たることは、日本企業の活性化にもよいことである。外国勢に日本企業がすべて呑み込まれるわけではないし、外からの風に晒されて、逆に競争力をつける企業もあるだろう。

ある程度の荒波に晒されることで、日本企業の競争力は初めて「鯨」レベルになる。
ポイズンピル頼みは邪道
敵対的M&Aへの対策として、最近よく「ポイズンピル(既存株主に安価で新株を発行し、全体の株式数を増やして買収者の保有比率を引き下げる制度)を仕込めばよい」とか「黄金株(原則として一株だけ発行され強い議決権をもつ株)を特定の第三者に発行すればよい」という声を聞く。

しかし、これらはあくまで現経営陣を守るための手段であることに留意すべきである。本来、経営者を誰にするかは株主が決めることで、敵対的M&Aを仕掛けられたときポイズンピルを発動するには、「自分が経営者でいることが、いかに企業価値の維持に繋がるか」を株主に説明し、理解を得る前提がなければならない。ポイズンピルや黄金株に頼って経営権を維持しようとするのでは、本末転倒である。

検索エンジンで知られる米google社は、一般の投資家に経営権が渡らないよう、きわめて議決権の重い株を経営陣がもっている。それは、上場の時点で「会社が敵対的買収に遭っていまの経営者が会社の外に出て競合を始めれば、株主はとても不安定になる」と判断したからである。つまり、いまの経営陣が議決権を持ち続けるのが同社にとってベストという考えが成り立つということかもしれないが、一般論にはなりえない。普通のサラリーマン経営者が、トップに立ったら自分の地位を守るため黄金株をもつというのは、どう考えても奇妙である。

敵対的M&Aを防ぐ薬はいろいろあるし、年々その効き目はよくなっている。だが、それは株主に対する効き目なのか、それとも経営者に対する効き目なのかを冷静に判断しなければ、薬は副作用をもたらすだけである。

その意味で、敵対的M&Aがすべて「悪」だと決めつけるのは間違っている。株主は、経営者の意見にいつも賛同するわけではない。つねに一定の緊張関係が株主と経営者のあいだに存在するほうが、チェック機能という意味では健全である。また、敵対的M&Aをまったく認めなければ、株式市場の活性化や資本市場の流動性の喪失に繋がりかねない。

もちろんマーケットにも【歪/いびつ】な部分がある。「株式分割をすると株価が上がる」というのも、その一つである。もし株式を一○○分割すれば、株価も一○○分の一に落ちなければおかしい。しかし、現在は「一○○分割する」と発表した途端、価格が何倍にも跳ね上がる。このような部分が、マネーゲームに利用される危惧がある。マーケットがもっと合理的になれば、本来の価値以下で放置されている企業が、敵対的M&Aのターゲットにされるのを防ぐこともできる。

結局、最も合理的な敵対的M&Aの対策とは、「経営者が株主から信頼されて、期待に応えるリターンを上げること」である。経営者とは、株主からの委託を受けている立場であり、その経営者を選ぶのは、あくまで株主なのである。

以上

月刊誌「Voice」平成17年5月号(株式会社PHP研究所)より掲載。
但し、表現が一部異なる部分があります。
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