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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」6月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:岸田真穂弁護士)
2005-06-10
月刊専門誌「運転管理」6月号『判例研究』(担当者:岸田真穂弁護士)
今回は、自転車に乗って走行中の小学生が違法な駐車車両を避けるためセンターライン付近まで進出し、対向車両と衝突して死亡した事故につき、対向車両の運転者のみならず、駐車車両の運転者にも過失があるとして、損害賠償責任が認められた事例を取り上げます(さいたま地裁 平成16年8月6日判決、判例時報1876号114頁)。

(事故の概要)
事故の内容は、以下のようなものでした。
●日時●平成13年9月12日午後2時50分ころ
●場所●埼玉県川口市内市道
●被害車両●A車(自転車):運転者A(小学3年生)
●被告車両●Y1車(小型特殊自動車):運転者Y1 Y2車(貨物自動車):運転者Y2
●事故態様●Aが自転車に乗って埼玉県川口市内の市道において宮前方面から原町方面に走行中、道路上に違法駐車をしていたY2車両を避けようとしてセンターライン付近に出たところ、原町方面から宮前方面に向けて進行してきたY1車両と衝突し、轢過され死亡しました。

そこで、Aの母親であるXは、Y1に対し、前方を十分に注視して、安全を確認して走行すべき注意義務を怠った過失があると主張すると共に、Y2に対し、走行車両の前方の視界を遮るように違法駐車していた過失があると主張し、Y1及びY2に対し、不法行為(共同不法行為)及び自動車損害賠償保障法3条に基づき、7005万円余の損害賠償を請求しました。

これに対し、Y1は、前方不注視の過失があったことを認めた上で過失相殺を主張し、損害額を争いました。また、Y2は、同人の違法駐車と本件事故は無関係であり、本件事故発生の原因は専らAの運転ミスあるいは前方不注視及びY1の前方不注視にあると出張し、過失及び因果関係の存否を争いました。

(争点)
まず、裁判所は、宮前方面から原町方面への車線の幅が約3.4mであるのに対し、Y2車両の横幅が約1.7mであり、Y2車両の右側面からセンターラインまでの距離が約1メートル、左側面から建物壁までの距離が0.7mであるため、宮前方面から原町方面へ進行する車両は普通乗用自動車は勿論のこと自転車であってもセンターライン付近まで進出して進行することを余儀なくされる状態であった事実、本件道路は小中学生の通学路になっておりY2はこれを認識していた事実、及びY2は10年余りの間毎日車庫のように使用していた本件道路にY2車両を3時間余りにわたり違法に駐車しており、この違法駐車により本件道路の見通しが遮られていたという事実を認定しました。

そして、裁判所は上記争点につき下記のように判示した上で、Y1及びY2に対し連帯して3492万円余の支払を命じました。

(1)Y2の過失の有無について
Y2は、本件事故当日のY2車両の違法駐車が、本件事故現場を走行する車両運転者の過失を誘発し、交通事故発生の危険性を生じさせるものであることを認識しながら、漫然と違法駐車を継続し、本件事故を発生させたものであり、Y2には、本件事故の発生について、Y2車両を速やかに移動するべき義務があるのに、漫然と違法駐車を継続した過失があると認められる。

(2)Y2の違法駐車と本件事故の間の因果関係について
上記認定した事実によれば、Y2車両の違法駐車は、本件事故現場付近を走行する車両運転者の過失を誘発し、交通事故の発生の危険性を生じさせるものであったというべきである。そして、本件事故は、その危険が具体化し、Y2車両を避けて進行しようとしたA車がセンター付近でバランスを崩し、対向して進行してきたY1車両の進路に進入して発生したものであるから、Y2の違法駐車と本件事故の間には相当因果関係が認められる。

(本判決の意義)
「駐車車両」を原因として交通事故が発生した場合、駐車車両の運転者に過失があるとして損害賠償を請求できるか否かについては事故の態様が多様であるため一様ではありません。

この点、判例は、道路の形状、幅員、交通量の状況等から「駐車行為」が他の交通の妨害とならないか否かにより具体的に運転者の過失を判断する傾向にあり、本判決もこの裁判例の流れに沿うものといえますが、違法駐車車両の運転者の不法行為責任を認めた一事例として参考になると思われます。

安易な気持ちで違法駐車を行うことにより損害賠償責任を負う可能性があることから、いずれにしても違法駐車は止めるべきでしょう。

以上

「運転管理」平成17年6月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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