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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」8月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:野田聖子弁護士)。
2005-08-10
月刊専門誌「運転管理」8月号『判例研究』(担当者:野田聖子弁護士)
今回は、路外の工事現場から見とおしの悪い道路上に右折進入した加害車(生コン車)が、左方から直進走行してきた被害車(大型自動二輪車)に衝突した事案を取り上げます(【控訴審】大阪高裁平成16年3月5日判決、【第一審】京都地裁平成15年3月28日判決、いずれも交通民集37巻2号281頁~)。

(事故の概要)
事故の内容は、次のようなものでした。
●日時●平成10年12月29日午前9時30分ころ
●場所●京都府久世郡
●態様●Y1所有、Y2運転の生コン車が、事故現場である国道一号線バイパス北側側道(東行一方通行道路)の南側路外にある工事現場から右折して道路へ進入した際、左方(西方)から進行してきたX運転のバイクと衝突しました。Xは、本件事故により死亡しました。

(争点)
裁判では、(1)この事故現場で工事を行っていた建設会社であるZに、工事現場から道路上への車両誘導員を配置する義務があるか否か、(2)Xの過失をどのように判断するか、が主な争点となりました。

(建設会社の責任)
裁判所は、まずこの事故現場で工事を行っていた建設会社であるZの責任について次のとおり判断しました。

「一般に、路外施設から車両が道路に進入する場合、当該車両の安全通行の確保に関しては、当該車両の運転手が、その状況に応じて自ら安全確認をすべき注意義務を負うものである。しかし、当該路外施設の性格や道路に進入する場合の危険性、当該道路の交通量、路外施設で作業をする場合の契約上の義務等を総合考慮して、特段の事情が認められる場合は、当該車両の運転手のみに安全確認の義務を負わせるのは相当ではなく、当該路外施設の設置者、管理者等は、車両の通行に関して、交通誘導員の配置や信号機の設置等、安全確保をすべき注意義務を負うべきである。」

裁判所は、このように述べた上で、本件では次の事情があるため、「特段の事情」が認められるとして、建設会社であるZは、本件工事期間を通して車両誘導員等を配置する等の義務を負うとし、民法709条の不法行為責任を負うと判断しました。

・道路と工事現場との境に道路面からの高さが約2.5~2.7メートルの目隠し板が設置されていたため、道路を走行する車両の運転者、工事用車両の運転者の双方にとって、安全確認に支障が生じる状況であったこと。

・本件道路は交通量が多いだけでなく制限速度を超えて走行する車両も多いため、工事用車両が左方の安全確認ができる位置まで進行するには相当の危険を伴うこと。

・工事が長期間に及ぶため工事用車両の出入口がある旨の警告の看板だけでは安全確保として十分とはいえず、事故発生の危険性も高かったこと。

・工事の発注者である日本道路公団は建設会社であるZに対し、工事現場から道路への出入口付近に交通保安要員1名を配置するよう要求し、Zもこれに応じて本件事故が発生する4日前までは交通誘導員を配置して出入口を通行する車両の誘導に当たらせていたこと。

そして、運転者側であるY1及びY2と建設会社であるZの損害の負担割合について、第一審は、運転者側が60%、建設会社側が40%であると判断しました(控訴審はこの負担割合に触れていません)。

この判決は、工事用車両が工事現場から一般道路に出入りするときの安全確保については、まず車両運転者自らが安全確認をすべき注意義務を負い、さらに、特段の事情がある場合には、路外施設の管理者等も交通誘導員の配置等を行って安全を確保すべき注意義務を負うとした点に意義があります。工事現場付近等の通行の安全確保のため妥当な判断だといえるでしょう。

(道路外から進入する四輪車と直進する単車の過失割合)
また、裁判所は、Xの過失について、Xは時速40キロメートル以上の速度違反があること、一方、生コン車が時速10~15キロメートルの低速で本件道路に進入してきたこと等からすると、Xには、生コン車の発見が遅れたという前方不注視の過失、または生コン車を発見していたが停止するものと軽信して速度を落とさないまま進行した過失があり、双方運転者の過失の内容、程度を考慮すると、過失相殺の割合を、Xが30%、Y2が70%と見るのが相当であると判断しました。

なお、第一審は、XとY2の過失相殺の割合をXが15%、Y2が85%と判断しましたが、控訴審においてXにより厳しい過失割合が認定されました。

道路外出入車と直進車との事故については、通常、直進車には軽度の前方注視義務がある一方、流れに逆らう道路外出入車にはより重い注視義務が課せられます。別冊判例タイムズNO.16「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」【169】(P241)によれば、直進する単車と路外から進入する四輪車が衝突する事故について、基本過失割合として単車10%:四輪車90%、とされ、修正要素として、単車に時速30キロメートル以上の速度違反がある場合は単車の過失を20%プラスして単車30%:四輪車70%、とされています。控訴審の判断は、この基準に沿うものとなっています。

道路外から道路に進入するときは、他の車両、自転車、歩行者等の通行を妨害しないよう十分注意することが必要です。

以上

「運転管理」平成17年8月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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