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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」9月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:長浜周生弁護士)。
2005-09-10
月刊専門誌「運転管理」9月号『判例研究』(担当者:長浜周生弁護士)
今回は、貨物車が交差点を通過する際、交差道路から交差点に進入しようとし直前で急停車した自転車との衝突を回避すべくハンドルを切り、貨物車が道路脇の店舗に突入した事例をとりあげます(名古屋地裁平成16年9月3日判決、自動車保険ジャーナル第1578号6頁)。

(事故の概要)
事故の内容は、次のようなものでした。
●日時●平成13年11月30日 午前6時55分ころ
●場所●名古屋市太白区内交差点(幅員17メートル片側2車線道路と幅員6メートル道路の信号付き交差点)
●態様●前記日時場所において、貨物車(X車)運転者Xが片側2車線道路を進行中、本件交差点の手前で対面信号が青から黄色に変わったがそのまま本件交差点を直進しようとした際、本件交差点の左方(南方)からY自転車が本件交差点に向けて走行してくるのを認め、Y自転車が本件交差点に進入してくるものと判断し、X車とY自転車の衝突の危険性を感じ、とっさにX車の急ブレーキをかけるとともに、ハンドルを右に切り、さらに、X車が反対車線に進入するのを防ぐためにハンドルを左に切ったが、車体をうまく維持することができなくなり、ハンドルを左に切ったまま本件道路を走行し、途中から車線南側の歩道を乗り越え、本件交差点の西側出口付近から約40メートル先付近にあるB所有の店舗建物及びC所有の店舗建物に衝突し、それぞれの建物を損壊した。
本件事故について、店舗被害者らに対し店舗損害につき対物賠償保険金を支払った甲が求償金295万7610円を、X車を損壊したXが損害賠償金303万5865円を、暴走原因を作出したY自転車運転者に対し支払うよう訴えを起こしました。

(争点1=自転車の停車位置)
甲X側は、本件事故において、Y自転車が本件交差点手前で停止せず交差点内にまで進入していたと主張しました。
判決では、Yは、本件交差点南側入口手前に設置された横断歩道上を横切った付近で、進行方向左方から「危ない」という男性の声が聞こえたことから、とっさにY自転車のブレーキをかけて停止していることからすれば、Y自転車が甲Xの主張する本件交差点の南側の横断歩道を越えた付近のひび割れ線上付近を越えて本件交差点に進入していたと認めることは困難と判断しました。

(争点2=X車のスピード)
Yは、X車が本件交差点の西側出口付近から約40メートルも走行して本件各店舗建物に衝突したことから、X車は、時速70キロメートル以上の速度で走行していたとして、Xが適正な速度で走行していれば、X車が本件各建物に突っ込むことはなかったと主張しました。
判決では、本件事故は、XがY自転車に驚いてとっさにX車のハンドルを右に切り、その直後に中央分離帯に衝突したり反対車線に飛び出すことを避けるためにハンドルを左に切るという運転操作をしたと認められ、これによれば、Xが、Y自転車との衝突を避けるためにハンドルを切るとともにブレーキを掛けたとしてもその効果が十分現れなかった可能性が高いと考えられ、X車が運転操作に支障が出るほどの速度で走行していたとまでは認められないと判断しました。

(過失割合の判断)
裁判所は、以上のような事故態様の認定を踏まえ、本件事故は、Xが本件交差点の手前で対面信号が青から黄色に変わったが、そのまま本件交差点を通過しようとした際、本件交差点左方から本件交差点に近づいたY自転車が交差点に進入してくると判断し、衝突を回避しようとして、X車のハンドルを右に切ったことから発生したものと認められるとし、一方、Yは、Y自転車を運転して漫然と本件交差点に近づき、「危ない」という声を掛けられてY自転車を本件交差点の南側の横断歩道を越えた付近のひび割れ線上付近に停止させたことが認められるとしました。その上で、本件交差点を直進しようとしたXが、Y自転車が本件交差点に進入してくるものと考えて、Y自転車との衝突を避けるためにX車のハンドルを右に切るという運転行動を取ったことはやむを得ない面があるとし、本件事故の過失割合を、X8割、Y2割と解するのを相当と判断しました。

(非接触事故の判断の難しさ)
本件はいわゆる非接触事故でありますが、非接触事故においては、接触していない当事者に過失が認められるのか、仮に過失が認められるとして、どの程度の割合なのか、しばしば争いが生じます。一般には、一方当事者の接触回避行動がなければもう一方の当事者に接触していたであろう、という関係があれば因果関係が認められることになろうかと思われますが、本件では、交差点進入前で自転車が停止したと明確に認定した上で(つまり、仮に回避行動がなくとも衝突はなかったということを前提に)、自転車の過失を認めたものであり、珍しいケースかと思います。このような判断に至った理由には、Y自転車運転者が、X車の接近を自らが直接目にして停止したのでなく、漫然と進行し、第三者の「危ない」という声に反応して急停止した点をみて、Yの過失を認めたものと思われます。

以上

「運転管理」平成17年9月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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